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建築家・鈴木敏彦教授が提唱する、 ダンボールシェルターで変わる災害時のあり方

 避難所に避難した人々のプライバシー保護と安心できる環境づくりを目指す

  2011 年3 月11 日に発生した東日本大震災。テレビに映る避難所の光景は衝撃的でした。 硬い床に毛布一枚で雑魚寝する多く の被災者の姿。「建築家としての職能を避難環境に役立てたい」その思いからダンボールシェルターの活動は始まりました。

1 週間で設計をまとめ、工学院大学校友会理事会に被災地支援案を提 言し、同大学建築系同窓会前会長より大学に寄付を受け実現。

そこから約1 か月後の4 月23 日 ~ 25 日には40 人の学生ボランティアとともに、ダンボールシェルター 150 個を宮城県気仙沼市の避難所へ 届けることが出来ました。

当初は資源の再利用を考えダンボール素材に

 避難所には支援物資に使われた後の大量のダンボール(厚さ5 ミリ)がゴミと化していました。

そこで、資源の再利用の 観点からも優れたダンボールシェルターの設計に至ったのです。

そもそも、ダンボールは中空構造(トラスト構造)で保温性・保冷性を持ち軽量かつ不使用時は畳める点も大きな魅力でした。

  開発当初は、一次避難環境として被災者の方々の数週間の滞在を想定していたのですが、実際には仮設住宅が建設されるまで被災者の方々は半月から1 年の滞在が余儀なくされるとわかってきました。厚さ5 ミリのダンボールでは到底そこまでは対応出来ません。

そこで、剛性・耐水性の高い厚さ10 ミリの強化ダンボールで設計をした強化ダンボールシェルターがうまれました。接合部はプラスチックジョ イントキャップと採光・換気を考慮して天井はルーバー式の快適な空間になっています。

これは2021年度「東京都令和2年度先進的防災実用化支援事業」にも採択され大幸紙工株式会社から製品化されました。

避難所での三密(密閉・密集・ 密接)と受入れ人数を減らさないダンボールスリープカプセルを開発

 その後、 2020 年に国内でカプセル ベット6 万床の販売実績を持つコト ブキシーティング株式会社から共同 研究依頼を受けて開発したのがダンボールスリープカプセルです。

これは避難所での三密(密閉・密集・ 密接)を回避しつつ、受け入れ人数を減らさない工夫をして設計しています。

ひとつのユニットカプセル(2  平米・耐荷重600 キロ)の前に、リ モートワークも可能なダンボール製 のデスクと椅子を備えた専用庭(1.6  平米)があり、スフィア基準を満たす構造です。

自治体が平時に備蓄しておき、非常時に組み立てて一次避難環境として整備する使い方を想定しており、2 階建てにすることでバスケットコート(15 × 28 メートル)の広さとなると98 ユニットの設置が可能です。

ダンボールスリープカプセルを製品として広めることで災害時の利用や備えとして理解が高まっていくことを願っています。

 


スフィア基準とは、被災者に支援活動をおこなう人たちに向けて書かれた、スフィアハンドブック(人道憲章と人道支援における最低基準)に書かれている国際基準です。指標には「避難所、またはその周辺に、日常的な活動を営むための適切な居住スペースを有する人の割合」のなかに、「1人あたり最低3.5㎡の居住スペース」と記されています。(記事参照:内閣府「避難所運営ガイドライン」http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_guideline.pdf

 

 ■ 鈴木敏彦(すずき としひこ)

1958年東京生まれ。建築家・デザイナー

2011 年より工学院大学建築学部建築学科教授。株式会社ATELIER OPA ファウンダー。

北欧建築・デザイン協会理事。日本フィンランドデザイン協会理事。

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